肉体改造

指導員  上地 正昭

 2008年1月27日

 皆さん、明けましておめでとうございます。今年も湘南沖空会はイベント盛りだくさんで楽しそうですね。私も近所の空手道場を色々見学して、ようやく週末に通う道場を決め、稽古を再開したところです。さて、今回のコラムは「肉体改造 」ということで、私にとって空手よりもキャリアの長い筋力トレーニング(筋トレ)に関してトピックを提供したいと思います。

 一般にスポーツの競技能力は、
   @技術的要素
(技能、戦術、判断力、精神力等)
   A体力的要素
(筋力、体格、コンディション等)
の2つの要素から成ると言われています。
技術的要素だけを極めた老いた武道の達人が現役として通用するのは漫画の世界だけの話で、この両者をバランス良く向上させることが、いずれの競技においてもアスリートの必須条件となっています。道場での稽古は、時間が限られていますので、どうしても@の技術的要素を中心とした稽古となってしまいます。また、年月と共に@は自然と積み重なってゆきますが、Aは何もしないと若さと共に失われてゆきます。そこで、Aの体力的要素を向上させるための有効な手段の一つである筋力トレーニングに関する一般的な理論を今回は紹介したいと思います。

最初に筋力トレーニングとは、バーベルのような器具を使うウェイトトレーニングの事だけを指すのではなく、器具を使わない腕立て伏せや腹筋運動も含めた、文字通り筋力を向上させるためのトレーニングの事を指します。「筋トレをすると動きが遅くなる」などと言う人がたまにいますが、その考えは、「練習中に水を飲むとスタミナがつかない」という昔あった迷信と同じぐらい、古い考え方となります。

筋トレの目的は競技によって様々ですが、共通の目的は各競技で特に重要となる筋肉(体の部位)を集中して効率的に強化することです。例えば、空手で踏み込みのスピードや距離を高めたい時に、足運びやフォームの技術的要素の反復練習と並行して、縄跳びやカーフレイズ等によって、踏み込み動作のキーとなるヒラメ筋(ふくろはぎの筋力)を集中的に強化するトレーニングを行うと、より高いレベルで目標を達成することができます。競技に必要な各種動作を反復練習することは勿論重要で必須ですが、それだけでは、持久力の弱い別の部位が先に疲労してしまい、本当に重要な部位を追い込むことができません。そのため、そのような重要な部位を集中的に補完的に強化する事が筋トレの主な位置づけとなります。(ラグビーやアメフト、格闘技などのパワー系の競技では、体を大きくするための手段としても筋トレを行いますが、今回は触れません)

では、どのように筋トレをすれば良いのでしょうか?筋トレは、「トレーニング⇒食事⇒休息」のサイクルが基本となります。一度は聞いた事があるような、「筋肉の超回復」に関するお話ですが簡単に説明しますと、筋肉は運動によって破壊されると、次はその負荷に耐えられるように、少しパワーアップされて再生されます。ですが再生のための栄養(特にたんぱく質)や休養時間が不足すると、せっかく鍛えても筋肉は充分に発達しません。また、発達してもその後に、また強い負荷を与えないと、時間と共に元に戻ってしまう性質があります。この超回復の性質を上手くコントロールすることが筋トレでは重要となります。

先ずは基礎編ということで、特に重要な点だけを抽出して紹介すると、
  (T)
「効かす」ことを目標とする(回数や重量は目安であり目標ではない)
  (U)たんぱく質の摂取を意識する
(ただし脂質には注意)
 V)筋トレは毎日やっても逆効果の場合がある(筋肉毎に必要な休息日数がある)
といったことを、先ずは覚えておかれると良いかと思います。

(T)ついつい見失ってしまう最も重要なポイントです。腕立て伏せを例にとると分りやすいですが、20回や50回などの回数を目標にすると、腕の曲げ方を浅くすれば簡単に達成できてしまいます。重要なのは、どれだけ筋肉を破壊できたか?ということですので、回数はあくまで目安程度にして、本当に限界まで追い込んだのか、次の日に筋肉痛になって残っているか等を意識しましょう。では、目安とする回数はどのくらいが良いのでしょうか?最大筋力をUPさせたい場合は5回以下、筋持久力をUPさせたい場合は15回以上など、これまた目的によって目安とする回数は変わってくるのですが、先ずは、10回ぐらいがギリギリできる負荷を3セット行うことを目安にするのが、最初は追い込み易く良いかと思います。速い動作で行うと反動や勢いを利用してターゲットとは違う部位を使ってしまい、肝心の部位を追い込めないので、最初のうちは、ゆっくりとした挙動で、関節をできるだけ大きく動かすことを意識して筋トレを行うと、確実に効かすことができます。

(U)筋肉を形成する上で、最も重要な栄養素は、肉や魚、玉子などに多く含まれているたんぱく質となります。運動選手の体が必要とするたんぱく質の量は、一般人の普通の食事メニューでは不足していると言われています。ですから筋トレをはじめる際には、普段の食事の中でたんぱく質を摂取する量を少し意識することが重要です。ここで気をつけないといけないのは、たんぱく質が多い食べ物は、脂質も多く含まれる傾向にあることです。筋肉と一緒に脂肪もつけてしまうのは、多くの競技者にとって望ましい事ではないので、一般に鶏肉、豆腐、玉子の白身、納豆などが、脂質が少なく安価なたんぱく源として人気があります。アスリートは純粋なたんぱく質だけを抽出したプロテインやアミノ酸などのサプリメントも利用しますが、我々はそのレベルのトレーニング量にはなかなか到達しませんし、無駄に出費もかかりますので、先ずは、ラーメン(炭水化物)ばかりを食べることをやめたり、メニューに迷った時にはたんぱく質が多いものを選ぶ等の意識をもつことから始められたら良いかと思います。

(V)大きな筋肉の部位ほど、トレーニング後の休養期間が必要です。個人差やどれだけ追い込んだかにも依存しますが、一般に大胸筋や大腿四頭筋などの大きな筋肉は、休養が3日(中2日間)必要と言われています。逆に小さな筋肉の集まりの腹筋などは1日で回復すると言われており、毎日トレーニングを行っても良い部位とされています。これらを無視して例えば大胸筋のトレーニングを毎日行っても超回復は起こらないので筋肉は十分に発達しませんし、場合によっては腱鞘炎や肉離れ、疲労骨折などが発生し、毎日筋トレをやった方が逆効果になってしまうことがあります。鍛える部位を分けたサイクルでメニューを組んで毎日トレーニングすることも可能ですが、普通はなかなかそのような時間をとれませんので、MAX休養期間の3日をとって、週2回ぐらいのペースでトレーニングを行うことを目標とすると良いでしょう。ちなみに、私の場合は、週末に市営のトレーニングジムで1回、水曜日に会社で1回(昼休み器具なし)のペースでやっています。

以上の点を知識としてもっていれば、筋トレの基本中の基本は押さえられているかと思います。何事もそうですが、筋トレの効果も一朝一夕にはなかなか現れません。例えば筋トレをやった後の1〜2日は筋肉が張って体つきが変わったかのような錯覚をしてしまいがちですが、筋肉が発達しているわけではありません。また回数や重量も最初の1ヶ月はぐんぐん伸ばせますが、先に神経系が負荷に馴れ始めているだけで、これも筋肉が発達しているのとは少し違います。始めて1ヶ月ぐらいではなかなか目に見える形で効果は現れませんが、3ヶ月ぐらい続けると、ようやく体に変化が見えはじめます。さらに根気強く6ヶ月続ければ、本人が気付かなくとも、周りの人が違いに気付くぐらいの変化がではじめます。先ずは頑張って3ヶ月続けることを目標にしてみましょう。

筋トレのもっと詳しいノウハウはインターネットで沢山紹介されています。例えば以下のページでは、分かりやすくもっと詳しいトレーニングの基本理論を紹介してくれています。
 http://www.know-dt.com/
また、以下のページでは空手家のための筋トレメニューの例を、世界チャンプでもあり日本代表監督でもあった西村誠司先生が紹介してくれています。
 http://www.karatedo.co.jp/seiji-nishimura/step/index.html
ついでに余談ですが、この西村誠司先生のセミナーの動画が以下のページの一番左下にありますが、こちらは技術的要素の手本として、とても参考になりますよ。
 
http://www.karatedo.co.jp/seiji-nishimura/tokyoseminar/photo/no1/photo.html

道場に通う目的や空手に求めるものは人によって様々ですので、身体的要素まで能力の向上を追求する必要を感じない方も多くおられることでしょう。ですが、自分の空手能力の現役のピークを高めたい、見極めたいと思っている方も少なくはないかと思います。そのような方は、普段の稽古における技術的要素の鍛錬と並行して、身体的要素も高めてはいかがでしょうか。きっと目標達成への近道となるかと思います。上地流の先人達の現役時はみんな筋肉隆々でしたしね!
 

 

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