今年も首都圏大会に参加させて頂きありがとうございました。大会の準備運営に携わった方々に深く感謝いたします。今年の運営は更に洗練されてとてもスムーズに感じ、スタッフのご尽力が伺えました。ありがとうございました。
さて、コラム担当からのフェードアウトを密かに画策しておりましたが、その首都圏大会を通じて面防具の是非について改めて考えるところがありましたので、少し書かせて頂ければと思います。まず面防具を試合で装着するメリットとデメリットを挙げると、以下のような項目になるかと思います。
■メリット
@安全性の確保
組手ではいくら自分が気を付けていても相手次第で簡単に事故が発生してしまいます。未熟な相手や悪意のある相手のために、歯や鼻を折られたりするリスクを背負うことは、子供や学生は勿論のこと社会人であっても割に合わないと思います。三戦や小手鍛えでも、顔面鍛えはないわけですから、万が一の場合の防波堤としてファールカップと同様に面防具も必須であるという考え方はあるかと思います。
Aスピード制限からの解放
カウンターを狙えるレベル同士の試合になると、お互いが同時に踏み込み合う場面がどうしても発生し、寸止めが困難な場合があります。特に力量が近かったり、相手の方がスピードが速かったりすると、相手の動きに合わせて加減するのが困難となり、当てないために相手が突っ込んで来た場合を想定したスピードと射程距離を敢えて落として突かなくてはならないという、本末転倒の制約が生じたりします。これを考慮して上地流の中には、カウンターは捨て身の技だから失敗すれば多少ダメージを喰らうのは仕方ないという考え方で、カウンター狙いで顔に入れられてしまった分には反則を取らないルールとしている組織もあるようですが、いくら不可抗力でも鼻や歯を折られるのはやはり割に合わないと感じます。また、これらの問題を技術を磨いて止められるようにすべきと片づけてしまうのも少々理想論の感があります。そのような場面は面防具に頼ると割り切り、全力のスピードで競い合うのが試合としては望ましいとも考えます。
B当て得の防止
寸止め試合では「ポイントを取れずに負けるぐらいなら反則を取られてでも当てろ」という発想がどうしても付き纏います。私自身もポイントを取ったのと引き換えに思いっきり顔面に食らい大流血し、1ポイントに対して全然割に合わないダメージをもらった経験があります(笑)。また、逆に当てられた場合には、それを審判にアピールしなければ損をするというバカらしい側面もあります。当てられたことを床にひっくり返ってダメージをアピールする(しなければならない)場面を実際見たことがありますが、これこそ実戦では有り得ない空手としてあってはならない姿かと思います。
C審判の負担軽減
一般に寸止めルールの試合は非常に審判の判定が難しいと言われています。特に顔面突きの寸止め判定は審判の技量に大きく依存します。日頃から審判の訓練をやられているハイクラスの審判を揃える大きな大会ですら、誤審が発生するのが日常なのが寸止めの競技です。その点、面防具を着けてソフトタッチまでを許容すると、見た目や音により判断しやすくなり審判への負担も幾分か軽減されます。
D観客の分かりやすさ
審判が判定し難いぐらいですから、一般の観客が観てて判断するのは非常に困難です。これは面防具の有り無しに係らず、寸止めスタイルに共通してよく言われていることなのですが、それでも面防具無しよりは面防具があった方が審判と同様に観客にもどちらにポイントが入ったのかが観てて分かりやすいです。
■デメリット
@実戦からの乖離
昔と比べたら随分改善されたようですが面防具には死角が存在するため、実戦(?)と異なる視野となってしまいます。実際、学連が昔メンホーを廃止にしたのは、その死角を突いた攻撃が盛んとなってしまったからとも聞いています。また曇って見え難くなったり慣れるまで圧迫感で呼吸し難かったりする弊害もあります。(ちなみに全空連系では世界大会や学連は面防具無し、実業団大会や国体では面防具有りとなっているようです。高校生以下の大会は勿論、面有りです)
A寸止めの技術の低下
過剰攻撃とならないように突きの加減を自在にコントロールできることは、護身術である空手には重要な技術かと思います。面防具無しで組手をやっていた方が、止める技術を磨きやすいのは間違いないかと思います。(力を加減する技術は果たしてどうなのかとは思いますが・・・・)
Bエンターテイメント性の低下
面防具により観客に競技者の顔が見えないことは、エンターテイメント性が大いに損なわれることになります。大会は観客に観てもらうという側面もありますので、この点は大きなデメリットかと思います。面防具有りの場合であっても、試合終了時には礼の観点から面を必ず外すようなルールになっていますが、試合中の人間の表情が見えないという大きな損失をカバーすることは到底できません。フェンシングや剣道に比べたら多少マシなんでしょうけどね(笑)。
C面防具の過信による危険性
面防具があるがゆえにそれを過信(誤信)して突きを打ち抜いたりすることにより、かえって事故が発生する場合もあります。事実メンホーを着けていても鼻血は勿論、しばしば鼻や歯が折れる事故が発生しています。これらのこともあり、面防具有りでも寸止め(当てない)が基本であることをルールとして徹底する方針が近年は取られているようです。
以上が私の思いつくメリット・デメリットですが、既に文面からもお分かりになるように個人的には面防具はあった方が良いと感じてます。でもデメリットBの損失も大きいかな・・・。
上地流唐手を選んでいる我々は、そもそも組手や型の競技をそれ程重視していないわけですから、試合なんぞで不必要なケガのリスクを背負う必要はないと考えます。
組織も新しくなり、来年の世界大会において各国から様々なスタイルの選手を迎えるにあたり、ちょうど良い機会ではないかと思いますので、是非改めて各国の代表の方々と我々の組織ではどのようなルールを採用すべきかを協議をして頂けたらと思います。