『お盆の季節に思うこと』

館長  藤本 恵祐

 2019年8月12日

長い長い梅雨がようやく去って、一転猛暑の日々となりました。
皆さま体調など崩されていないでしょうか。
 

湘南修武館各道場も、今週は一斉にお盆休みとなります。
お盆と言えば、先祖の霊をお迎えして供養する日本の伝統行事ですが、
8月15日は日本人にとって忘れてはいけない特別の日でもあります。
そうです、「敗戦記念日」です。一般的には「終戦記念日」とも呼ばれ
ますが、正しい歴史認識は、日本が第二次世界大戦で正式に負けを認め
た「敗戦記念日」であると私は考えます。
 

私は昭和36年に熊本県の有明海沿岸で生まれました。母方の実家で幼少期
を過ごしたので、戦争体験者である祖父母や両親から、よく戦争の想い出話し
を聞く機会がありました。そもそも、子供の頃の遊び場が近所の山に掘られ
た戦時防空壕跡で、よく友達と探検ごっこなどをして遊んでいましたので、
戦争は子供ながらに身近な出来事だったように記憶しています。(小学校の
先生にも元軍人の方がたくさんいました)
 

祖父から聞いた話しとしては、有明海沿岸を散歩していたら長崎半島の上空
に大きなキノコ上の雲(原爆)を見たこと、海で貝を採っていたら、いきな
りエンジンを止めて後方から風に乗って飛んできた米軍戦闘機から機銃掃射
を受け、祖父の近くにいた知人に弾が当たって即死し、自身は急いで海岸沿
いの防空壕に逃げたが、反転した戦闘機に足のふくらはぎを撃ち抜かれ重傷を負
ったこと(生々しい傷跡をいつも見せてくれました。当時は医師もおらず、
近所の獣医さんに応急手術をしてもらったそうです)などです。そもそも長崎
に投下された原爆は、元々の計画では熊本市内がターゲットだったようです。
 

父もまだ幼い子供だったわけですが、爆撃機が低空で飛来するのを間近に見たり、
母もやはり、従妹と川べりで遊んでいて戦闘機から機銃掃射を受け、慌てて川に
飛び込んで何とか助かったことなどをしっかり記憶しているそうです。私自身も、
昭和17年に建てられた生家の土壁をほじくって遊んでいたら、機銃掃射の
銃弾がポロリと出てきてびっくりした記憶があります。
 

戦争に大義などありません。敵も味方も国家という得体の知れない力の狂気
に駆られ、自身の意に反して殺傷行為に加担し、結果的に地球よりも重いと
される人命を奪いあう醜い争い、それが戦争の実態です。今国の政治では、憲法
改正について論議が盛んになりつつありますが、国家緊急時においては国民の
権利を大幅に制約し、戦争に対する備えを更に拡充する論調の政治家や文化人
も増えています。しかし、いざ開戦となったとき、自ら最前線に立って銃を手に
持ち、自らの命を賭けて戦う覚悟と勇気がある方は、その中にどれほどいるので
しょうか・・・。言うだけなら誰でもできます。
 

政治家も国民も、まずは、国家間の戦争回避のためにはどんな努力や仕組みが
必要かの議論を徹底的に交わし、外交や経済・文化交流などによる戦争抑止策
を率先実行し、それと併行して必要最小限のあるべき軍備について模索するの
でなければ、再び多くの無辜の命を奪うという愚行を犯しかねません。繰り返し
になりますが、先の戦争で起きた事実は、「無差別な殺戮」です。軍人も一般
市民も関係ありません。
 

沖縄の空手には「空手に先手なし」、「敵に打たれず敵打たず」という言葉が伝
承されています。また中国の故事や日本の武士道においても、「戦わずして勝つ」
のが最良の策という優れた思想があります。
 

私たちは、日々の修行において自分で自分の心身を錬磨している訳ですが、
その究極の目的は、鍛錬精進と切磋琢磨によって徹底的に己を鍛え抜き、自身
よりもか弱い者の目線を養い、時に手を差しのべ、また、いかにして人と争い
の状況を作らず、争いの場に加担せず、平穏調和の人間関係を築いて行くかに
あると確信します。空手の技を一度も使うことなく平穏な生涯を終える空手家
こそが本物だと、亡くなった私の師匠・山田親和先生も常々仰っていました。
 

日々の修行で「知性」と「心」を磨き、世界に広がる空手仲間たちとしっかり
手を結び心を通わせること。私たちの活動が、そのまま世界の平和と安寧につ
ながるように、無益な戦争など絶対に起こさないように、これからも努力して
行きましょう。
 

2019年8月12日 

付記)
34年前の8月12日、日航ジャンボ機墜落事故が発生しました。多くの乗員
乗客が犠牲となりましたが、その便の副操縦士だった佐々木祐さんが、私の
母校・熊本県立濟々黌高等学校の先輩(S40年卒)であったことを、うかつ
にもつい最近知りました。墜落間際の音声記録でも、先輩が必死に機体を立て
直し不時着を試みる場面が確認できます。
先の大戦による戦没者の皆様と併せ、事故で犠牲となられた皆様の御霊が安ら
かでありますようお祈りしたいと思います。合掌。

 

 

 

 

 

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